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効率の良い理事会運営の秘訣
こんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。だいぶ暖かくなってきましたね。学校や会社では新しい年度に入るところが多いと思いますが、管理組合においても、そろそろ総会の準備にかかっている理事会も多いのではないでしょうか。今回は、過去の当事務所のニュースレターを参考に、「効率の良い理事会運営の秘訣」と題して、理事会の役割や理事会の問題点をお伝えしたうえで、効率の良い理事会運営を行うためのヒントをお話しさせていただければと思います。
これから、理事になる予定の人にはぜひ読んでいただければと思います。
1.理事会とは
①業務執行機関
「理事会は管理組合の業務執行機関」といわれています。株式会社における取締役会のようなものを連想する人が多いと思います。取締役会に関する規程は、会社法等に規定されていますが、実はマンション法ともいわれる区分所有法には、理事や理事会の定めはありません。(管理組合法人の場合は「理事」と「監事」の規程があります。)
基本的には、管理組合の意思決定(管理・運営)は、区分所有者全員の総会で決議し、多数決原理で運営していきます。
ただし、戸数が多いマンションにおいては、そのような運営方法は非効率的なので、法律では「管理者」をおいて、管理者が管理組合の業務を遂行することができる規程を設けています。※管理者に関しては後述します。
では法律上も明確な規程がない管理組合の理事や理事会が、なぜマンション管理に関する重要な位置付けとして議論されてきたのでしょうか?
国土交通省が公表している「マンション標準管理規約(以下「標準管理規約」といいます。)」があります。これは、マンション内での住民間のトラブルを防止し、適正な建物管理と快適な生活を目的として、有識者が集まって昭和57年(1982年)に作成されたものです。
途中で何度かの改訂作業を経て、2016年の3月に最新版が公表されています。
この標準管理規約の中に、理事会が行うべきことや理事長を含む各理事の業務内容等が規定されています。
標準管理規約は法律ではありませんが、マンション管理組合においてはマンション管理のバイブル的な存在として位置づけられていますので、多くの管理組合はこの標準管理規約を採用して管理組合内に理事会を設け、理事長が中心となってマンション管理を行っています。
②責任者はだれ?
会社の責任者は社長です。ですから、一般的な考えからいうと管理組合の責任者は理事長となります。
ところが会社の社長には強大な権限と責任がありますが、管理組合の理事長はそうではなく、理事会は主に理事の合議制で運営されます。
一般的には、会社の社長や取締役は経営能力のあるプロや優秀な社員の中から選ばれるのに対し、管理組合の理事は、多くの場合は区分所有者の中から毎年輪番制で選ばれ、さらに理事の互選(場合によってはじゃんけんやあみだくじ)で理事長が選出されます。
ですから、選ばれた理事長が必ずしも能力があるとは限りませんし、そのような理事長に強大な権限や責任を与えることはできません。また、そんな重い責任や権限を与えられるなら、怖くなって誰も理事や理事長をやりたがらなくなります。実は標準管理規約では、「理事長は理事会の決議を経て●●を実行する。」という規程がほとんどです。このような合議制の運営の方が日本の風土になじむと考えたからでしょうか。
ちなみに、標準管理規約において理事長が理事会の決議を経ないで行うことができる行為は、
- 通常総会の招集
- 保険金の請求と受領
- 災害時における保存行為
くらいしかなく、権限というよりは「義務」に近いものですね。
③理事の責任は?
会社は出資者からのお金を預かって、利益の追求を目的として活動し、取締役は重い責任と多額の報酬がありますが、管理組合は利益を追求するのではなく、マンションという建物の維持・管理が主目的です。ほとんどの場合は無報酬か貰ってもお小遣いにもなりません。ですから、そもそもの目的が違います。
とはいうものの、管理組合が管理する資産は、マンションの規模によっては何億円、何十億円になります。高額な区分所有者の資産を適正に管理していくには、それなりの責任が伴うと誰もが考えます。
前述のとおり、区分所有法には、「管理者」という規程があります。管理者には、①保存行為、②管理規約で決められた行為、③総会で決まった事項を実行する権限が与えられます。
また、同法において「管理者はその職務において区分所有者を代理する。」とありますので、管理者がその職務内で実施した行為は、管理者個人の責任ではなく区分所有者全員の責任となります。
これを、理事や理事長に置き換えて考えるのが一般的な考えとなっています。
つまり、理事会が管理規約や総会の決議に基づき実施した行為は、理事長(理事)の責任ではなく区分所有者全員の責任ということです。ですから、違法行為や善管注意義務違反等がない限り、理事会が行った行為(業務)の結果に、理事が責任を負うことはありません。
2.多くの理事会が抱える問題点
①自分たちが決めたことを自分たちではやれない。
会社の場合は、経営方針、営業戦略、予算などを取締役会で決め、所定の手続きのうえ、自分たちでスピーディに実行します。そしてその結果について責任を負います。
ところが、管理組合の場合、事業計画や予算案は総会の議決事項となっており、年に1回開催される通常総会において決定されます。総会に諮るのはその年の理事会、執行するのは翌年度の理事会となります。1年で理事全員が入れ替わってしまう管理組合が約6割(平成25年度マンション総合調査)ですから、多くの管理組合では「前期の理事会が決めたことを今期の理事が引き継いで実行する。」ことになります。
また、理事会が行うべき業務は、保存行為のほかは、管理規約と総会決議に基づくことになりますから、業務範囲はかなり限定されます。
「総会では承認されていないし、管理規約にも規程がないけれど、マンションにとって良いことから即実施しよう。結果の責任は私たちがとればよい!」といって実行することはできません。そんなことをしたら、結果に対する責任ではなく、そもそもそのようなことをやったことに対する責任を問われることになります。
どうしても自分たちでやりたいことができた場合は、臨時総会を開催して承認を貰ってから自分たちの理事会で実行するか、やりたいことを次年度の総会に諮ったうえで、次年度も理事を継続して実行するかになります。ですから、効率という点ではとても非効率的な運営となります。
②無責任体質
前項で述べた通り、理事会が違法行為や善管注意義務に反しない限り、つまり普通に業務を行っている限り、責任を問われることはありません。
その反面、
- 予算は総会で承認されているからその通りに使えばよい。
- 自分たちは余計なことは考えず、前の理事会が決めたことだけをやっていればよい。
- 面倒なことは管理会社に任せておけば何でもやってくれる。
このように考えて「早く1年たって欲しい」となると、いわゆる無責任体質となります。
自分が本業としてやっている仕事や自分の家計を考えるときとはえらい違いです。
そうしているうちに、正しい判断力を行使することなく、問題を先送りにしたり、無駄なコストを垂れ流したりする結果になることもあります。
③専門性に乏しい理事で高額の資産管理をやらなければならない
マンション管理には相当高度な専門知識(法律、技術、財務、保険、資産運用etc…)が必要です。区分所有法に管理者の規程がある趣旨は、管理者という外部の専門家に管理をさせることを前提としているといわれています。欧米でのマンション管理は多くがこのシステムを採用し、所有と管理を切り離して合理的に考えています。
しかし、日本の理事会では、居住者から選ばれた理事の合議制で運営されますので、多くの場合、理事会にマンション管理の専門家はいません。その場合は、理事だけで物事を考えて正しい結論を導き出すことが難しいので、結局は決断を先送りにしたり、ルーティンワーク的なことだけをやったりする理事会になってしまいます。
3.じょうずな理事会運営のヒント
それでも、マンションを購入したからにはいつかは理事の順番が回ってきます。
以上のように、マンション管理組合の理事会は問題が多いのですが、理事になったからにはなるべく効率の良い理事会運営を行い、管理組合の利益、延いては区分所有者全員のためになるような運営を心掛けたいと思うはずです。そこで理事会を効率的に行うためのヒントを私なりに考えてみました。
①年間の課題を決めて、毎月進捗状況を確認する。
何度も申し上げますが、理事会でやるべきことは管理規約で決められた業務と総会で決議された事項です。ですから、今年の目標等は比較的簡単に決めることができます。
年度の初めにその項目を整理して年間スケジュールを決め、毎月進捗状況を確認しながら議論をすると、効率の良い議論ができます。
案件ごとに結論を出す期日を決めておき、それを目標に議論をしていけば効率が良くなります。
②会議にダラダラと時間をかけない。
私が拝見してきた多くの管理組合のうち、効率の良い運営をやっている管理組合は、総じて理事会等の開催時間が短いです。普通は1時間半から2時間。どんなに掛かっても3時間以上やっている管理組合はありません。一方、効率の悪い管理組合の理事会は最低でも3時間、酷い時には夕方から始めて午前様までやっているときもあります。こんなことを続けていれば、理事も理事会に出たくなくなり、だんだん欠席者も多くなって理事会自体が機能しなくなったり、場合によっては成立しなくなったりすることもあります。
もし、自分が勤務している会社において、こんな長時間の会議をやっていると、今はそれだけで自分の評価が下がってしまいます。
※昔は、いつまでも残業をしたり、長い時間会議をしたりしていると「よく働くやつだ。」といわれた時代もありましたが…
ではどうすれば理事会の開催時間を短縮することができるでしょうか。
1)理事会の議題をあらかじめ決めておく
理事会での審議(検討事項・報告事項)事項をあらかじめ決めておき、事前に理事に配布しておくととても効率が良くなります。議題を決めるのは、一般的には理事長が良いと思いますが、理事会の事情によっては、別の理事が担当しても構わないと思います。今は、電子メール等も活用できますので、前回までの理事会の結果から判断したり、管理会社と協議しながら予めまとめておいたりするとよいでしょう。また、理事会で検討してもらいたい事項がある場合は、事前に理事長に連絡して、審議事項、理由、必要な資料等を提出しておくことも可能です。
2)審議事項を優先して
当日の理事会で必ず決定(議決)しなければならない事項を最優先で審議していきます。
そして、報告事項はあとに回し、終了時間が来てしまったら「時間が無くなったから、報告事項は読んでおいてください。」とし、何が何でも最初に決めた時間に理事会を終了する癖をつけていけばよいと思います。最初のうちは、ほんとうにこれ良いのかと思うかもしれませんが、何回かやっているうちにきちんと時間内に収まるようになります。経緯の説明や意見の表明をする場合も常に時間を考えて発言していれば、他の人の持ち時間のことも考えるようになりますので段々時間が短縮できるようになります。「俺は先月の理事会を欠席したので、その時の経緯をもう一度説明してくれ!」などはもってのほかです。
また、当日結論を出さないで良い検討課題等を議論する場合も、あらかじめ決まった時間内で議論をすることとし、時間が来たら直ちに止めるようにするとよいと思います。
③必要に応じて外部専門家を活用する
理事会は、あらかじめ決められた課題を審議、決議して、たんたんと処理していくことが基本ですが、居住者からの問合せ、要望、苦情などに対応しなければならないときもあります。そのような場合、住民からの要望等を理事会で一つずつ取り上げて対応策を審議していたらそれこそ時間がいくらあっても足りません。
そんな時は、管理会社や専門家などを上手に活用するとよいと思います。
例えば、騒音や近隣関係の問題、共用設備に関する問合せや苦情、マンションを良くしたいための提案など様々ですが、管理会社や顧問マンション管理士等はそれらに関する経験が豊富で、対応策や解決事例なども多く持っていますので、事前に問題を相談しておき、その解決方法や事例等を理事会(できれば理事会前)において紹介してもらう等すれば、無意味な議論を行う必要がなくなります。
管理組合で発生する様々な問題を解決するには、管理規約や関連する法律(特に区分所有法)に基づいて処理していく場合がほとんどです。これを専門的知識が少ない理事だけで何時間議論しても、結論が出ないことは容易に理解できると思います。そんな時に専門家に相談するとわずか数分で問題が解決することもよくあります。
余談ですが「パーキンソンの凡俗の法則」というものがあり、「多くの人は、自分が分からないような専門性の高いことについては議論に口出しをしないが、誰もが知っている(または知っていると思っている)ことについては、議論の本質とはかけ離れたどうでもよいことであっても時間を使って議論をしたがる。」という法則だそうです。理事会でこんなことをやられたら議長(理事長)はたまったものではありません。ご自分の理事会をご覧になって思い当たる節はありませんか?
4.さいごに
あくまでも私見ですが、理事会にかかる時間と適正な管理組合運営は反比例していると思います。
- 理事会が長時間になる。
- すると、、議論がつまらないだけでなく心身ともに疲れる。
- そして、欠席する理事が多くなる。
- そうなると、理事会が適正に機能しなくなり、効率も悪くなる。
- その結果、管理組合の資産価値がきちんと維持できない。
という「負の連鎖」に陥ってしまわないよう皆様方で注意していただければと思います。
総会議事録の作成を失念し非訟事件として訴えられた事例
こんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。
区分所有法には第三章(第71条以下)に罰則規定があります。
いくつか例を挙げると
- 規約を保管しなかった場合
- 規約や総会議事録の閲覧を拒否した場合
- 総会議事録を作成しなかった場合や虚偽の記載をした場合
- 管理組合法人に関する登記を怠った場合
等々は、管理者(理事長)、管理組合法人の理事、総会の議長等に、過料20万円が科せられることになっています。
とはいうものの、専門的知識に乏しい役員だけで運営する場合、管理規約がどこに保管してあるかも不明な場合や、総会(特に臨時総会)の議事録作成を忘れてしまう場合もありそうです。
実は、私が大規模修繕工事のコンサルティングでお世話になった管理組合で、臨時総会の議事録を作成することを失念し、組合員から非訟事件として訴えられた事例がありましたのでご紹介いたします。
臨時総会
大規模修繕工事に関する臨時総会を開催し、議案は可決されました。
この管理組合は、管理会社と管理委託契約を締結しており、管理委託契約書の中には総会議事録の素案作成も業務として含まれていましたが、当日はたまたま担当者の都合がつかず、臨時総会へは出席していませんでした。
そのため、議事録は理事会で作成することとなり、私も議事録の素案を理事長に提供していました。
しかし、理事長も慣れていないことや、ご自身のお仕事が忙しかったこともあり、その後の作業を管理会社に依頼することを忘れていたようです。
過料事件
ところが約1年後に、ある組合員から過料事件として裁判所に通知されてしまったのです。
組合員から裁判所に提出された「過料事件通知書」
内容は、「当時の臨時総会の議長であった理事長が、議事録を作成していないので区分所有法の規定に基づき過料に処すべきもの」でした。
この方は、過去には理事長職も経験された方でしたが、普段から管理組合運営にいろいろとご意見をお持ちのようで、時の理事会とはいつも対立関係にある方でした。
当然ながら当時の理事長はびっくりして私に相談されました。
私も、まさかこんなことになるとは思っていなかったとはいえ、議事録の作成作業を最後まで確認していなかったという反省もあります。
そこで当時の関係者(役員、管理会社、私)が集まって対応策を検討することになりました。
対応策の検討
当時の理事長の記憶も定かでなかったので、関係者の記憶をたどったり、管理会社や管理事務所の保管場所も探したりましたが、やはり議事録は作成されていませんでした。
また、裁判所からは所定の様式に基づく「陳述書」を提出するように指示がありましたので、そちらも提出する義務があります。
私は、専門家にも相談した結果、以下のことを陳述書に書いて提出するようにお勧めしました。
- 議事録は作成していなかった。怠慢であったことは認める。
- その理由と当時の状況の説明
- 遅れたけれど直ちに総会議事録を作成した。
- 一般的なマンション管理組合の理事会運営の実態
- 不処罰としていただきたい。
提出した陳述書
裁判所の判断
約1か月後に裁判所から決定通知が来ました。
私たちの主張が認められて、当時の理事長もほっとしたみたいです。
反省
戸数も少ないマンションで管理会社に管理を全面委託しているマンションは多いと思います。私のマンション(35戸)もそうです。
普段は、理事会議事録の素案も含めて総会議事録素案等は管理会社が作成してくれ、理事長は簡単に確認して署名・押印をすれば済むようになっています。
今回は、総会に管理会社が出席してなかったことを忘れ、ついいつもの調子で進めてしまった結果トラブルを招いてしまいました。
このように訴えられることは稀でしょうが、議事録の作成にかかわらず規約原本の保管等も理事会がきちんと把握しておく必要があると思いました。
マンションの損害(火災)保険について
こんにちは。重松マンション管理士事務所の重松です。
今回は、ほとんどのマンション管理組合が付保している損害保険について書かせていただきました。
高経年マンションにおいては、最近の保険料の大幅な値上がりで驚かれていると思いますが、そんな管理組合にとってもリスク(危険)管理のヒントになれば幸いです。
なお、文中によく出てくる「保険料」は、加入者が保険会社に支払うお金で、「保険金」は、事故が発生した時に、保険会社が契約に基づき加入者に支払うお金のことです。
1.損害保険の歴史
リスク管理の考え方は、紀元前からあるといわれ、古代中国の船荷の輸送方法(複数の船に分散して荷物を輸送する。)が起源であるとか、保険については14世紀ヨーロッパの貿易商が、海上貨物の保険制度をスタートさせたことがその始まりとかいわれています。
そういえば、損害保険会社の社名には「●●海上」という名称が多いのもうなずけます。
17世紀後半になると、ロンドンのロイドコーヒー店に多くの保険引受人が集まり、海運や貿易に関する様々な情報を収集するようになり、会員制の保険組合ができ、これがいわゆる「ロイズ(Lloyd’s)」 の始まりといわれています。
そして日本においては、明治維新以降に本格的な保険会社が誕生して現在に至っています。
2.マンションにおけるリスク管理の考え方(手段)
マンションにおけるリスク管理は、物に対するリスクと損害賠償に対するリスクの2つに分類されますが、まずはそれらのリスクに対する管理手段等を考えてみましょう。
①リスクの回避
この考え方は、リスクの発生を回避するというもので、危険な場所には近づかないという考え方です。例えば紛争や戦争が起こっている国への旅行を中止したり、自動ブレーキのついた車を運転したりするなどです。マンションの場合は、火災が発生しないよう不燃性の内装材料を使用したり、建物をコンクリート造で設計したりすることなどですが、これらのことは建築基準法や消防法等の法律で必須事項になっている場合がほとんどです。
②リスクの軽減
リスク発生時の損害を極力低く抑えようとする考え方です。
例えば、車を運転する時にはシートベルトをするとか、エアバッグ付きの車を選ぶなどです。
マンションの場合は、旧耐震基準の建物であれば、耐震補強を実施し、損害の発生を軽減させる工夫などがそれに当たります。
③リスクの保有
全てのリスクに対応することができれば一番よいのですが、それにはかなりの費用が掛かることが予想されます。
リスク発生時のために、一定額の貯蓄をしておくとか、お互いが助け合う互助制度や組合制度を構築しておくなどがその考え方です。
マンションにおいては、修繕積立金を積み立てておくなどがそれにあたると思います。
※修繕積立金は、原則として計画修繕のために積み立てられるものですが、標準管理規約単棟型第28条第1項(修繕積立金の使途)第2号に「不測の事故その他特別の理由」が規定されています。
④リスクの移転
どのような準備をしておいても、リスクを完全に排除することはできません。
ですから、リスクが発生したときに、その損害を経済的に解決できる方法を予め準備しておく考え方があります。これが生命保険や損害保険の考え方です。
3.損害保険の基本原則
損害保険には、その制度を支えている重要な基本原則がありますので、その原則を以下にご紹介します。
①大数の法則
精巧に作られたサイコロを6回振ったとしても、1から6までの数が一回ずつ出るとは限りません。しかし、6万回振ったら、600万回振ったらどうでしょうか?
その場合は、多少の誤差はあっても1から6までの数がほぼ同じ数だけでてきます。確立上当然のことですが、これが「大数の法則」です。
個々の場合を見ると偶然と思われる事故でも、全体からみると一定の確率で発生しており、保険の統計的な基礎数値となっている法則のことです。
マンションにおける火災や漏水事故も、多数のマンションを観察すれば、一定の発生頻度を予想することが可能になります。
②収支相当の原則
保険は、原則として加入者が支払う保険料の範囲内で運営・処理されることを前提として成り立っています。
事故が発生した時に加入者に支払う保険金に充当する「純保険料」と、事業運営のための経費等に充当される「付加保険料」があり、純保険料の総額と保険金の支払い総額は一緒でなければなりません。これを「収支相当の原則」といいます。
具体的な計算例として、マンションが100万戸あった場合、火災事故の発生件数が年間に2,000件で、1件当たりの平均被害金額(支払保険金)が1000万円と想定してみましょう。
保険金総額は、1,000万円×2,000件=200億円となりますので、必要な保険料は200億円÷100万戸=2万円/年間になります。
保険業法で、保険会社が、顧客獲得のために勝手に値引き販売をしたり、過剰な保険金を支払うことが禁止されている理由も「収支相当」でなければならいことにあります。
③給付・反対給付均等の原則(公平の原則又はレクシスの原則)
例えば、木造の戸建住宅と鉄筋コンクリート造のマンションに保険をかけるとします。どちらも評価額は5千万円とした場合、火災が発生するリスクは木造住宅の方が高いことは容易に理解できます。だったら、加入者が支払う保険料は、木造住宅の方がマンションよりも高くなって当然ということです。
専門的にいうと、加入者が負担する保険料は、保険事故が発生する確率と保険金を乗じた額と同じでなければならないという原則です。
マンションでの漏水事故を考えた場合、築浅のマンションと高経年マンションではその発生率が全く違います。最近は、高経年マンションの保険料がとても高くなっているという理由はそこにあります。
④利得禁止の原則
損害保険の場合は一部の例外を除き、その保険で利益を得てはいけないという原則があり、これを「利得禁止の原則」といいます。例えば1億円の保険契約をしていても、損害額が1千万円だったら貰える保険金は1千万円です。わざと事故を起こし、保険金で儲けようとする行為を防止するためです。
損害保険契約をする場合は、十分な補償をしてもらえるように考えて契約することが大事ですが、必要以上の金額で契約をしても、高い保険料を支払うだけになってしまいますので、検討が必要です。
4.マンションに付保する損害保険の代表例
①物保険(基本保証)
一般的には「主契約」といわれ、契約する保険の基本的な部分です。火災保険がベースで、特約としてその他のさまざまな補償がついています。契約金額(保険金額)はマンションの再調達価額 の●●%という方法で決定し、その金額に応じた保険料を負担することになります。鉄筋コンクリート造のマンションの場合は、火災による全損は考えられませんので、100%の契約をする必要はありませんが、30〜60%で契約している管理組合が多いようです。また、マンションでは火災の発生よりも、悪戯や飛来落下物等の外的要因による破汚損の方が圧倒的に多いので、どのような特約を付保するかも検討のポイントになります。水害の可能性がほとんどない高台のマンションに、「水害保証特約」を付けたりしている管理組合を見かけますが、専門家にも相談しながら再検討されたらよいと思います。
②施設賠償責任保険
前述の火災保険は、マンションが被害を受けたときの補償を目的とした保険ですが、施設賠償責任保険は、マンション管理組合が維持・管理する共用施設に原因(管理の不備等)があり、第三者に損害を与えた場合、その損害賠償責任を担保してくれる保険です。
共用部分である給水管からの漏水で、居住者の住戸を水浸しにしてしまったとか、マンション内公園の遊具の管理状況に問題があり、幼児がけがをしたとかなどが代表的な事例で、その場合は管理組合に損害賠償責任が発生しますが、施設賠償責任保険を付保していれば保険でカバーできます。
③個人賠償責任保険
この保険も賠償責任保険ですが、対象は管理組合の共用施設ではなく、マンションの居住者になります。
居住者が、日常生活において、過失等が原因で第三者に対して損害を与えてしまった場合の保険となります。
この保険がカバーしている範囲は結構広く、日常生活に起因する事故等であればマンションの外で発生した場合も適用されます。しかし、近年は高経年マンションを中心に、専有部分の配管が原因での漏水事故が多発しており、そのためにこの保険料が大幅に値上がりしています。
また、そもそも共用部分には関係のない個人の損害賠償責任を、なぜ管理組合が負担して保険をかけなければならないのかという議論もあります。
上下階の漏水事故は、個人間の問題とはいえ、加害者に賠償能力がない場合には、必ずといってよいほど管理組合が紛争に巻き込まれますので、多くの管理組合で付保している場合が多いと思います。しかし、保険料が安い時代ならともかく、最近の大幅な値上がりを考えると、管理組合で付保することの是非も再検討した方が良いかもしれません。
5.その他
地震保険に対する考え方
管理組合で地震保険を付保するべきかそうでないかはよく問題となるところです。
あくまでも私見ですが、私は以下の理由であまりお勧めはしていません。①最大でも住宅の50%までしか付保できず、受け取った保険金で損害を全てカバーできないこと。つまり、地震保険は、被害を受けた建物を修復するというよりは、被害者の当面の生活の補てんが目的であり、管理組合の本来の目的とはいい難いこと。②保険料がかなり高いこと。③補償の対象が建物なので、設備や附属施設に大きな被害が出ても保証されないこと。④1回の地震での保険金支払総額が11.3兆円を超えた場合は、契約金額に応じて比例配分(減額)されるので、首都圏で大地震が発生した場合は、契約通りの保険金がもらえない可能性があること。などです。
しかし、東日本大震災以降、マンションにおける地震保険の契約率が大幅に上がっていることも事実ですので、管理組合のそれぞれの事情を考慮して検討されたらよいと思います。
保険金請求に関する誤解と時効
保険金は、契約者が被った損害に対して支払われますので、受領した保険金をどのように使うかは管理組合の自由です。例えば、敷地内のベンチが何者かに壊されたので、保険申請をして保険金を受領した場合、同等品を新規に購入するのか、更に費用をかけてもっと高級なベンチを購入するのか、購入しないで当面様子を見るのかなどは管理組合が決めればよいことです。被害が発生していないのに保険金を請求したら、詐欺になりますが、被った被害に対する保険金を受領しているのですからこの場合は詐欺になりません。
また、保険金請求の時効は3年といわれていますが、多くの人は、3年以上前に発生した事故は保険請求ができないと勘違いされています。3年の時効とは、保険会社の認定が下りて、保険金を受領できるようになってから、3年間請求をしなければ時効になってしまうという意味ですので、3年以上前の事故であっても、保険会社にきちんと説明ができる事故であれば、まずは請求してみた方が良いと思います。
それから、マンションの損害保険は自動車保険とは異なり、保険事故が発生して保険金を請求しても、更新時に保険料が上がることはありません。
(※料率の改定により、保険料が上がることはあります。)
また最近では、契約期間内の一定の判定期間内に保険金の請求がなかった場合(いわゆる無事故の場合)には、更新時の保険料を割り引く保険会社も出始めました。
マンションドクター火災保険について
多くの保険会社は、マンションの築年数だけで計算して保険料を算出します。前述のように築浅のマンションと高経年マンションでは漏水事故の発生率に大きな差があるからです。しかし、適切な修繕を実施して、給水管や排水管をきちんと更新しているマンションの場合はどうでしょうか。漏水事故の発生率は新築マンションと変わらないはずです。保険料を築年数だけで算出するのではなく、マンションの管理状況を細かく評価したうえで、保険料を算出する保険会社も出てきています。築年数が古い場合でも、適正な管理ができているマンションであれば、保険料が30〜40%も安くなっている事例もあります。
このマンションドクター火災保険を適用するための管理状況の査定は、研修を受けたマンション管理士が行う必要がありますが、高経年マンションであっても、きちんと管理がされているマンションであればぜひ検討する価値はあると思います。
6.さいごに
いかがでしたか?マンションに付保する保険の場合、商品の変遷等もあり、誤解や勘違いなども結構多いように思います。保険の中身を知らない場合には、大きな損をする可能性もありますので、分からないときなどはぜひ専門家に相談して検討してみてください。
修繕積立金を専有部分の改修に使用した事例の最高裁決定について
こんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。
私が10年来お世話になっている管理組合で、4年にわたる裁判をやっていましたが、2017年9月にようやく最高裁判所の決定が出て決着した裁判があります。この裁判は、相手方(原告・控訴人・上告人)の代理人弁護士はこの業界でも有名な学者だったし、高等裁判所の判決が出た時点で、一部のマスコミにも紹介されましたのでご存じの方もいらっしゃると思います。
事件の内容は「修繕積立金を専有部分の工事に使用できるか。」というものです。注目度の高い事案だと思いますが、今までは係争中であったこともあり、本件のご紹介は控えさせていただいておりました。
しかし、最高裁判所の決定が出たことや、私のホームページで紹介することに関し、管理組合からの了解が得られたのでここに公表させていただくことにしました。
はじめに
簡単にいうと、本判決は、「マンション管理組合が大規模修繕工事等の修繕を実施する場合、一定の条件のもとで修繕積立金を専有部分の工事に使用することは、違法ではない。」という内容です。
マンションの修繕積立金の使途については、多くの場合、管理規約で定められており、国土交通省マンション標準管理規約(単棟型)では、第28条(修繕積立金)に以下のように規定されています。
- 一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕
- 不足の事故その他特別の事由により必要となる修繕
- 敷地及び共用部分等の変更
- 建物の建替え及びマンション敷地売却(以下「建替え等」という。)に係る合意形成に必要となる事項の調査
- その他敷地及び共用部分等に関し、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる管理
上記の修繕は、全て共用部分が対象とされています。
また、第21条(敷地及び共用部分等の管理)第2項には以下のような条文もあります。
「2 専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる。」
そして、その条文に関する国交省のコメント欄には以下の2点があげられています。
- 第2項の対象となる設備としては、配管、配線等がある。
- 配管の清掃等に要する費用については、「共用設備の保守維持費」として管理費を充当することが可能であるが、配管の取替え等に要する費用のうち専有部分に係るものについては、各区分所有者が実費に応じて負担すべきものである。
給排水管の横引管が「専有部分」であることを前提として、以上を素直に解釈すると、国交省は、「専有部分を含む雑排水管の高圧洗浄等は管理費から支出しても良いが、更新(取替え)工事の場合は、専有部分に当たる部分の工事は個人負担でやりなさい。」と指導している事になります。
築年数が経過した高経年マンションが多くなった昨今、給排水管の更新工事はその事例がとても多くなっています。
その際に、「共用部分(竪管)の更新は管理組合の責任と負担で実施しますので、専有部分(横引管)については、個人負担でやってください。」となると、個人の経済的な問題もあり、専有部分の改修がなかなか進みません。
専有部分の改修が進まないと、それを原因とした漏水事故が多発し、結局は管理組合運営に支障をきたします。
そこで、管理組合に資金的な余裕や目途がある場合は、専有部分も修繕積立金で工事を実施する例は、最近は結構あります。
それが、今までは大きく揉めたり裁判沙汰までならなかったのは、反対する人が少なかったからです。
専有部分の更新工事は実施したいが、個人負担となると躊躇する住戸が出てくることは容易に想像できます。しかし、それを修繕積立金を使って管理組合が実施してくれるのであれば反対する人はいないはずです。
今回は、管理規約の改正・修繕積立金で専有部分の工事を一部実施することなどを提案した総会決議に関し、2名の組合員から「総会決議の無効」を主張して訴えられた事案です。
修繕工事のきっかけ
ご紹介するマンションは、私が2005年からお世話になっているマンションで、概要は以下のとおりです。
- 竣工 昭和42年(1967年)今年で築51年を迎えます。
- 4棟の団地形式で戸数は200戸弱
築40年目くらいから建替えも検討しましたが、容積率が現行法規をオーバー(いわゆる既存不適格建築物)しており、同様の規模では建替えができないことが判りました。
そこで、理事会と修繕委員会では、向こう30年間は十分に使用できる本格的な修繕工事を実施することを考え、従来型の大規模修繕工事ではなく「マンション再生工事」と名付け、本格的な検討に入りました。
建物については、従来の外壁塗装や防水工事に加え、ベランダ手摺の全面交換、玄関扉の更新を計画しました。ちなみに、アルミサッシについては米軍や自衛隊の基地が近くにある関係で、防衛省の騒音対策費でほぼ更新済みでした。
そして、設備に関しては給水管・排水管・ガス管の全面更新を計画しました。
給排水管更新工事等の概要
既設の配管類と更新方法は以下の表のとおりです。
|排水管|・配管材料は白ガス管と塩ビ管が混在
・横引管は、下階の天井裏に敷設されている|・竪管・横引管とも硬質塩ビ配管に更新
・なお、横引管は最高裁判例(平成12年3月21日)により「共用部分」|
|給水管|・配管材料は白ガス管
・横引管は、床スラブの上にシンダーコンクリート数㎝を施工し、その中に埋設|・竪管・横引管とも架橋ポリエチレン管(電気融着継手)に更新
・横引管(専有部分)は、シンダーコンクリート内に埋設(一部露出)
|
|トイレ|・従来型便器(フラッシュバルブ方式・専有部分)|・給水管、排水管の更新とともに、便器(節水タイプ・専有部分)も交換|
|浴室|・バランス釜タイプ
・浴室防水+押えコンクリート+タイル貼り
・椀トラップを経由して、下階天井裏から排水
・浴室防水、トラップは共用部分
・バランス釜、浴槽、内装タイルは専有部分|・バランス釜と浴槽を撤去してユニットバス化
・ベランダに新規に給湯器(16号)を設置
・床スラブに新たに穴をあけ、下階天井裏に排水経路を確保
・ユニットバスと大型給湯器は専有部分|
この表をご覧になって、皆様は何か感じられましたか?
更新工事の内容に、「ユニットバス」「給湯機」「便器」など明らかに専有部分である設備が多く記載されています。前述のとおり、横引管までを更新する例は多いと思いますが、ここまで踏み込んだ形での更新は珍しいと思います。
今回の、工事は共用部分の工事をするためには、浴槽も解体しなければできないとか、トイレの便器も従来品を再利用するなら保証が出ない等の難問が山積していました。
そのため、
- 従来のバランス釜タイプの風呂釜と風呂桶は撤去し、復旧しないでユニットバス方式に変更する。
- そのためには、給湯器が必要となるのでベランダに給湯機を設置する。
- 便器も旧式のフラッシュバルブ方式の便器を再利用するのでは、更新した配管との接続がうまくいかず、工事会社からの保証が出ないので、新品の節水型に交換する。
等の大掛かりな付帯工事が必要と判断しました。
浴室の現状図をご覧ください。

この状態で、排水管を更新するには、現在設置してあるバランス釜と浴槽を一旦撤去し、洗い場の床を壊して、排水管と防水層をやり替えた後、また床のコンクリートを打設したうえで、一旦撤去したバランス釜と浴槽を再設置することになります。
検討しましたが、この工法では工期も費用も掛かり、且つ再利用するバランス釜や浴槽も問題なく再利用できる保証がありません。
ユニットバス方式にする方が、工期もコストもメリットがあることが判りました。
費用負担の検討
このように、ユニットバス、給湯器、便器などは明らかに専有部分ですが、この方法で施工する方が、工期も短く費用も安く上がることや、専有部分を個人負担にすると、前述のとおり、経済的な理由等で工事ができない住戸が発生することが明らかなので、全てを修繕積立金で賄い一斉に工事することを検討しました。
長期修繕計画を見直した結果、さすがに一時的に資金ショートすることが分かりましたが、金融機関からの借入れを利用すると何とかなることも分かりました。
また、リフォーム等が進んでおり、既にユニットバス化した住戸や便器の交換をした住戸もありましたので、今回、管理組合でそれらの更新工事をしなくても良い住戸については、不公平にならないよう、何らかの配慮をすることを具体的に検討しました。案としては、それらの工事費用に相当する金額を返金する案もありましたが、規約で禁止されている修繕積立金の分割になる可能性もあるので、それは行わず、今回の工事に伴うオプション工事(個人負担)費用の減額をすることで決定しました。
手順
管理規約の改正案作成
標準管理規約(単棟型)には、第21条第2項に「専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる。」とありますが、これをさらに踏み込んで「専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分及び共用部分の管理上影響を及ぼす部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる。」とし、具体的にはユニットバス化や給湯器の設置を意識した改正案を作成しました。
そして、修繕積立金の使途(標準管理規約の場合は第28条第1項)に上記の工事を加えることとしました。
総会決議
重要な案件なので、事前に説明会を開催し、この方法が一番合理的であることや、組合員間の不公平が極力出ないような配慮をすることを十分に説明し、臨時総会を開催しました。
議案は以下のとおりです。
- 前記管理規約の改正
- 給排水管等更新工事の実施
- 資金の借入
- 管理費会計剰余金の修繕積立金会計への振替処理
裁 判
反対者はいたものの、議案は全て可決され工事が始まったその時に、2名の組合員から以上の決議は全て無効である旨の訴訟を起こされました。「2」、「3」、「4」は、「1」の決議に関連するものなので、実質的には「1」の規約改正の有効性を争った形となりました。
また、更に驚いたのは、原告側の代理人弁護士はマンション管理の業界では誰でも知っている有名な学者さんでした。管理組合側も、従来からお世話になっている弁護士事務所に依頼してここから長い戦いが始まります。
この間、裁判官も途中で3回変わりましたので、裁判官の性格や評判等も調査(検討)しながら弁護士事務所と協議し、裁判を進めました。
原告側は主に区分所有法の原則論的な主張が多く、さすが学者弁護士だなと思いました。
一方、被告(管理組合)としては、区分所有法の原則は尊重するものの、専有部分を同時施工する合理性や、起こり得る不公平に対する配慮などを丁寧に説明し、この建物においては、こうすることが最も合理的であることや、最終的に反対している組合員はわずか2名に過ぎないこと等を主張し、最後は多数決による「住民自治」を尊重するべきであるという点を主張しました。その間、準備書面を作成するための打合せや、関係者に証人として出頭していただくためのお願いなど、大変な苦労がありました。
そうしているうちに工事は進み、原告1名の住戸の縦系列を除いて工事は完了しました。ちなみにもう1名の原告は工事に協力し無事に完了しています。
1審(地裁)・2審(高裁)の判断
第1審の判決が出たのは、管理組合に訴状が届いて約3年7か月後でした。本当に長い戦いでしたが、結果は管理組合の全面勝訴です。
第1審の判決文はこちらをご参照ください。
原告は直ちに控訴し、裁判は更に続きましたが、6か月後に出た第2審(東京高裁)の判決も第1審の判決に加筆する形で原審を全面的に支持する内容でした。
第2審の判決文はこちらをご参照ください。
最高裁判所決定
原告(控訴人)は、高裁の判決を不満として最高裁に上告しましたが、2017年の9月に最高裁判所の決定が出ました。
決定文はこちらをご参照ください。
さいごに
私見ではありますが、マンション管理組合運営は、合理性と衡平性が担保されており、多くの区分所有者が賛成しているのであれば、区分所有者による自治がかなりの範囲で認められるのではないかと感じました。
そもそも民法の特別法として区分所有法ができたのも、民法では「全員一致」でなければできない「共用部分の変更」を見直し、区分所有建物を適正に管理するためには多数決原理を導入する必要があるという考え方に基づくものだと思います。
今回の裁判例だけをとって、「修繕積立金を専有部分の工事に使っても構わない」という短絡的な発想にはならないと思いますが、一つの参考事例にはなると思います。
最後に、今までの裁判の論点を以下にまとめてみましたのでご参考にしていただければと思います(PDF版:修繕積立金を専有部分の改修に使用した事例の各争点と裁判所の判断)。
【争点①】マンション総会決議の無効確認の利益の有無

【争点②】共用部分と一体化した専有部分や共用部分の管理に影響を及ぼす専有部分の管理を管理組合が行うことは、区分所有権の侵害に当たるか。

【争点③】本件規約の改正が、区分所有法第30条第3項(不衡平の禁止)に該当するか。

【争点④】本件規約の改正が、区分所有法第31 条第1 項後段(特別の影響を受けるものの承諾)違反となるか。

【争点⑤】修繕積立金の目的外使用に該当するか。

【争点⑥】仮に改正された規約が有効だったとした場合、本件工事の内容が、規約に違反しているか。

【争点⑦】本件工事は、区分所有制度の基本に反するか。

約60年前の写真が出てきました。
こんにちは。重松マンション管理士事務所の重松です。
先日、熊本に住むいとこから子供のころの写真をいただきました。
昨年の地震で、昔住んでいた市内の自宅が倒壊したため家財の整理をしていた時に偶然発見された写真です。
夏休みに、親戚一同でおばあちゃんの家に泊まりがけで遊びに行った時の写真だと思います。
一番上が私、右下の眼鏡の子が弟、左端の女の子が熊本在住のいとこ、残りの二人の男と女の子は大阪のいとこです。
この様子だとみんな小学校低学年のようなので、おそらく60年近く前の写真だと思います。
当時から現在までのことを思うと、いろいろ考えるものがありますが、とても懐かしい気持ちになりました。
大規模修繕工事の不適切コンサルタントについて
こんにちは。重松マンション管理士事務所の重松です。
昨年11月、マンションリフォーム技術協会(MARTA)が会報で「不適切コンサルタント問題への提言」を公表しました。
同時に、私のブログでも「マンション大規模修繕工事における談合の実態について(2)」をリリースし、不適切なコンサルタントの手口を紹介したうえで注意を喚起させていただきました。
実は、今年になってこの問題について国土交通省から、日本マンション管理士会連合会に通知がありました。
通知文のタイトルは「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について(通知)」というものですが、その内容は
- 現状の課題
- 課題解決に向けた取組みの実現
- 相談窓口の活用
という構成になっています。
具体的な内容については、通知文をご覧いただければと思いますが、内容は先般公表されたMARTAの提言や私のブログと同じです。
また、最後に記載してある相談窓口の件ですが、時間が発覚してから相談なさってもあまり意味がないと思いますので、できることなら最初から信頼できるコンサルタントに相談しながら進められたらよいと思います。
私のブログについても、多くの方から賛同や共感のご意見をいただきましたし、管理組合からのご意見やお問合せもずいぶんありました。
何点かご紹介すると、
- 既に大規模修繕工事を実施してしまったが、今思えば完全にやられてしまったと思う。
- 想像はしていたが、そこまで酷いとは思わなかった。今後の参考になった。
- 悪いのは設計事務所だけでなく管理会社も同罪
- そのうち、不適切マンション管理士も出てくるのではないか。
- 管理組合が、見積金額の安さだけで設計事務所を選定する限り、談合はなくならない。自業自得だ。
等があります。
私自身も考えさせられるご意見もありましたが、大規模修繕工事において、当事務所が開設以来訴えてきたことがようやく理解されるようになったことは喜ばしい限りです。
これからは、談合に頼らず自社の実力と品質で勝負する工事会社が多くなってくることに期待したいと思います。
標準管理規約の改正について
こんにちは、重松マンション管理士事務所所長の重松です。
国土交通省が公表しているマンション標準管理規約をご存知ですか?
もともとは、マンションを新築して分譲する際に、分譲業者に対し、管理規約を作成する場合のモデルとして使用するように指導されたものですが、最近では管理組合が管理規約を改正する際も、この標準管理規約に沿った形で改正することが望ましいとされており、いわば、バイブル的な存在となっています。
定期的に見直しが行われ、今回は2013年から見直し作業が行われていましたが、最終案がまとまり2016年3月14日にリリースさました。
国が定めた基準のようなものと理解されていますので、標準管理規約が改正されると少なからず管理組合にも影響を及ぼすことになります。
ところで、マンション管理の情報に明るい方ならご存知だと思いますが、今回の改正では、いわゆる「コミュニティ条項」が大きな話題となっています。
この件については当事務所が顧問契約先に定期的にお送りしているマンションサポート通信の2015年7月号に廣田信子さんが寄稿してくださったのでご参考にしていただき、今回はコミュニティ条項以外の改正のポイントを何点か私の個人的な感想も含めて説明させていただきます。
なお、彼女の寄稿の中に記載のある判例は、平成17年4月26日の最高裁判決です。
※記載している標準管理規約の条文番号は、「単棟型」を引用しています。また、区分所有法の条文番号の場合は「法第○条」と記載します。
1.外部専門家の活用
組合員の高齢化、賃貸化住戸の増加、マンション管理を取り巻く環境の変化(法律・技術の高度化)等の問題で、マンション管理に関する専門的知識に乏しい組合員だけで適正なマンション管理を推進していくことが困難な状況になっていることはお感じになっていると思います。
従来は、外部の専門家に相談したり、助言を求めたりすることができる規定はありましたが、今回の改正では、更に踏み込んで外部の専門家を理事長や監事を含む役員として起用することができる規定を設けおり、改定の大きな目玉となっています。
但し、組合員とは利害関係が必ずしも一致しない外部専門家を起用するわけですから、起用方法に関しては、別途細則を作り、「資格」、「任期」、「報酬」、「業務内容」、「業務のチェック方法」、「専任・解任の規程」等を定めることが望ましいと思います。
2.リフォーム工事に関する規定の明確化
専有部分のリフォームに関しては、従来は全てのリフォーム工事について事前に申請し、理事長の承認を得ることを義務化していましたが、今回は「共用部分又は他の専有部分に影響を与えるおそれのあるもの」に限って理事長の承認を必要とし、その他の工事については、「業者の立入り、資機材の搬入、騒音・振動・臭気等、管理組合として事前に把握しておく必要のある工事」については、事前に理事長に届け出ることにより実施可能、それ以外のリフォーム工事に関しては自由に実施できることになっています。
工事内容によって実施(申請)方法を明確にし、区分所有者の負担を軽減したようにも考えられますが、逆にリフォーム工事によって共用部分や他の専有部分を毀損した場合は、リフォーム工事を発注した区分所有者の責任と負担で適正に対応(修補や弁償)することも明確化しています。
3.暴力団等の排除規定の新設
従来の第19条(専有部分の貸与)の後に、「暴力団員の排除」という項目で新たな条項(第19条の2)を設け、賃貸借契約後に賃借人が暴力団員と判明した場合や暴力団員になった場合は、契約を解除する旨を賃貸借契約書に定めることを義務化しています。
更に、区分所有者が、賃貸借契約の解約権を管理組合が代理して行使することを認める書面を提出することにより、管理組合が当該暴力団員と区分所有者の賃貸借契約を解除することができる規定も入っています。
暴力団の排除が社会的なテーマとなっている昨今、ゴルフ場の利用申込書やホテルの宿泊申込書等に、暴力団員ではない旨の記載欄があり☑を入れるようになっている書式を皆様もよくご覧になると思いますが、マンション管理にも同じ流れを採用していることが読み取れます。
なお、国交省のコメントには「譲渡(売買)」の場合も賃貸借と同様の取決めを新旧区分所有者間の売買契約に謳うことも考えられるとしています。
個人的には、契約で取決めても相手が暴力団員であれば、契約解除等にすんなり応じることは考えられないので、結局は区分所有法第60条(賃貸借契約の解除と引渡し請求)や同第59条(区分所有権の競売請求)を活用することになりそうな気はしますが、規約や売買契約書に明確に規定することにより、暴力団員等に対するけん制効果は期待できるのではないかと思います。
4.保存行為の実施規定と、災害時、緊急時の管理組合の意思決定について
区分所有法では、保存行為(台風で割れたガラスの入替え、汚れた個所の清掃等)は、区分所有者が自由に行うことができますが(法第18条)、標準管理規約では、専用使用部分を除き、保存行為も管理組合が行うことになっています(第21条第1項)。
しかし、マンション管理の専門家でない区分所有者は、第21条を読んでもそのようには理解することができず、行うことができる保存行為の範囲や、勝手に実施した際の費用負担等で管理組合とトラブルになることも多かったと思います。また、管理組合が保存行為を行う際の手続き等も明確ではありませんでした。
今回の改正では、区分所有者が行うことのできる保存行為の範囲と費用負担を明確にし、管理組合が行う保存行為についても理事会決議で行う等の手続きを明確にしました。
また、災害時には理事長の判断で、復旧等の保存行為を実施することができるようにし、
更に、その費用を支出する根拠規定を収支予算の変更(第58条第6項)に規定しました。
なお、管理を行うために必要な範囲内で、理事長が専有部分等に立ち入ることができる規定は従来からありましたが(第23条第1項)、「必要な範囲内」については、明確な規定はなく、時として解釈をめぐり当該区分所有者や占有者とトラブルになることもありました。
今回の改正では新しい条文を追加して、「災害、事故等が発生した場合」であって、「放置した場合は共用部分や他の専有部分に重大な影響を与える場合」には立ち入ることができる規定を明記し、理事長が専有部分に立ち入ることができる範囲をより明確に規定しました。
5.役員の利益相反取引の制限
管理組合が、役員が経営している会社に工事を発注したり、その会社から物品を購入したりすると後でトラブルになることはよくある話です。
会社法では、利益相反取引を行う場合は株主総会や取締役会の承認を得なければできない旨がきちんと定められています。管理組合においても、役員はマンションの資産価値の保全に努めなければならない事はいうまでもなく、個人の利益のために管理組合と取引を行うことは適切ではありません。個人的にはそれ以前の問題として、誤解を与えかねない取引は原則として行わない方が無難であると感じていまが、発注する内容次第では、稀には許される(管理組合の利益になる。)こともあると思います。従来は利益相反取引について明確な規定はありませんでしたが、今回の改正では第37条(役員の誠実義務等)の後に、第37条の2(利益相反取引の防止)を新設し、管理組合と役員の間で利益相反と思える取引をする場合は、事前にその事実を開示したうえで、理事会の承認を得なければならない旨を規定しました。
また、同様の趣旨により理事会の決議を行う際には、その決議に利害関係を有する理事は議決に参加できないこととし(第53条第3項)、更に理事長と管理組合の利益が相反する事項に関しては、監事又は他の理事が管理組合を代表する旨を規定しました(第38条第6項)。
この規定の対象は、「役員」となっていますが、一般の組合員や居住者にも適用することも考えられます。例えば、修繕工事等を組合員や居住者に発注した場合、過去の私の経験では①工事完了後にきちんと報告書を出すように依頼したら、「安くやっているのでそんな手間のかかることまではできない。」といわれ、必要な図書が整備できなかった。②工事の内容に不満があるが、安くやってもらっているので文句をいいにくい。③不完全な工事個所があるので、理事長がやり直すように指示をしたら、反発されてその後の人間関係が悪くなった。④保証期間内に不具合が発生したが、工事をした組合員は既にマンションを譲渡して退去してしまったので責任を取ってもらえなかった等、枚挙にいとまがありません。
「親切な組合員や居住者が、安くやってくれたのでよかった。」という場合もありますが、そうならないことの方が圧倒的に多いので、利害関係者への発注は原則として禁止した方が無難だと思います。
6.理事会における代理出席について
管理組合の役員は、多くの場合輪番制で選出され、役職も「くじ引き」等で決まることが多いことは周知の事実です。
私も多くの管理組合の理事会を拝見していますが、ご主人がお仕事で忙しい場合等は、奥様が代理で出席している例は多く、やむを得ないこととだと感じています。
規約を厳格に適用し、代理出席は認めないとしたら、理事会そのものが成立しない場合もあるからです。
従来は、理事に事故等があり理事会に出席できなくなった場合、配偶者や1親等親族の代理出席について規約で定めることもできるとしていましたが、今回のコメントでは、規約で定めることは有効と認めながらも、「理事会に出席できないやむを得ない理由」を厳格に適用すべきとしています。また、代理出席を認める場合でも、総会において代理人の資質や能力をあらかじめ審査して決定することが望ましいとしています。
また、安易な代理出席を認めるよりも、事前に理事会の議題を通知しておき、議決権行使書等で意思表示ができる旨を規約で定める方が望ましいともコメントしています。
区分所有者による管理組合活動が積極的に行われている管理組合の場合は、理事の代理出席等はあまり考えなくても良いと思いますが、必ずしもそうでない管理組合も結構多く、輪番制で選出され、専門的知識も乏しい理事たちで何とか理事会が開催できている管理組合の場合は、ややもすると管理会社主導のマンション管理に陥ってしまう可能性もあります。そのようになってしまうと、標準管理規約を改正したことがかえって理事の負担を増加させ、管理組合の利益を損なう結果となってしまうような気もしました。
7.その他
議決権割合
議決権の割合は共用部分の持分割合によることが原則(法第38条)ですが、今回の改正では、初めて専有部分の価値(眺望・日照等)も考慮したうえで議決権を規約で別に定めることも可能としています。
これについては、詳細な解説は割愛しますが、個人的には賛成しかねます。
管理費等の滞納に対する措置
管理費等の滞納は、マンション管理に重大な影響を及ぼすことに鑑み、滞納者に対する督促義務や手順を明確にするとともに、遅延損害金の利率にも踏み込んでコメントしています。
管理状況等の情報開示
組合員から理由を付した書面で閲覧請求を受けたときに対象となる書類等に、長期修繕計画書、設計図書、修繕履歴等を追加するとともに、閲覧に代わり必要な個所の写し等を提供できる規定を設けました。
さいごに
今回の標準管理規約の改定については、パブリックコメントにおいて、多くの著名な団体からコミュニティ条項の削除に対して反対意見が寄せられていました。
このことだけを見ると、改正された標準管理規約案は「駄作」のような印象を受けますが、国交省のコメントも含めてよく読んでみると、決してそのようなことはないと思います。
確かにコミュニティ条項の削除は、賛否が分かれるところではありますし、住戸(専有部分)の価値によって議決権割合を変えること等は、なかなか理解しにくい面もあります。
しかし、私なりに考えてみましたが、今回の改正は「管理組合はマンションの資産管理(資産価値の維持・向上)が主要な業務である。」というメッセージを管理組合に向けて強く発信しているように感じます。
そのために、理事会の義務や権限を明確化したり、強化したりするとともに、外部専門家の活用については従来以上に踏み込んで肯定的なコメントをしています。
また円滑なマンション管理を遂行するうえで、一定範囲のコミュニティ形成は有効と認めながらも、そのための管理費の使い方については「自治会等」と混同しないように注意を促しています。
国土交通省は、築30年以上の高経年マンションストックが増加し、同時に建替えを含む管理が適正に行われずに老朽化・スラム化しているマンションが増加していることに危機感を感じているのではないかと思います。
標準管理規約は絶対的なものではありませんので、それぞれのマンションの事情に応じて臨機応変に修正しながら活用するべきものではありますが、冒頭に申し上げた通り国の指針のような位置付けとなっていることも事実です。
そのため、コミュニティ条項が削除されたことについて、大手新聞社ですら「管理費会計からは親睦会的な支出ができなくなった。」と不正確な記事を出したりしています。
皆様方には、コミュニティ条項だけでなく、それ以外の改正項目についても目を向けていただき、皆様のマンションの管理がさらに向上する糧にしていただきたいと思います。
顧問先マンションの排水管の更新工事が完了しました。
築40年以上経過した顧問契約先のマンションにおいて、排水管の更新工事を実施していました。
過去のブログでご紹介した東京都内のマンションなので、覚えていらっしゃる方も多いと思いますが、約7か月の工事期間を経て、この度、工事が無事完了しました。
工事開始前からわかっていたことですが、このマンションでは以下のような特徴があり、当初から大変な工事を行う覚悟が必要でした。
- 排水横引管が、共用部分として下階の天井裏に敷設されており、工事には天井の解体・復旧が伴う。
- 多くの住戸でリフォーム工事を実施しており、竣工当初の状況と現在の状態がかなり違っているので、個々のお部屋にあわせた改修計画が必要
- 300戸近いマンションであるが、居住している区分所有者が少なく、約3分の2が賃貸住戸となっているので、居住者の協力がなかなか得にくい。
マンションにおいて、給排水管の更新工事を実施することの難しさについては、外壁や屋上を主体としたいわゆる大規模修繕工事との大きな違いをご理解いただければわかりやすいと思います。下の表をご覧ください。
|_{text-align:left}. 大掛かりな足場|必要|不要|
|_{text-align:left}. 工事対象となる共用部分|専有部分と区分しやすい|専有部分と一体となっており、区分しにくい|
|_{text-align:left}. 工程管理|天候等に左右されるが、再調整が可能|天候の影響は受けないが、1日刻みの詳細な管理が必要|
|_{text-align:left}. 住戸内への立入|原則不要|必要|
|_{text-align:left}. 室内工事|なし|内装の解体・復旧を伴なうことが多い|
|_{text-align:left}. 居住者の協力が得られない場合|玄関扉関連、ベランダの工事等ができないことがあるが、全体の工事に与える影響は少ない|1つの住戸が立ち入り等に協力してくれないと、その縦系列の住戸全ての工事ができない場合もある|
どうでしょうか?給排水管の更新工事に関しては、「新築とは異なり、技術的にはそれほど高度な水準を要求されるものではないけれど、工程や各住戸の各種調整がとても難しい。」とよく言われますが、上の表をご覧になるとなんとなくご理解いただけると思います。
実際に工事を始めてみると「絶対に室内に入ってもらっては困る。」とか、「平日の昼間は不在なので、俺の家だけは日曜日に工事をやれ!」等という話もよく聞きました。
更には、多くの住戸でリフォームを実施しているのですが、浴室やトイレの専有部分の機器(バスタブや便器)を更新する場合、下階の共用配管との接続工事は、下階の住戸の協力を得て下からきちんと接続しなければならないのに、それをやらずに自分の階だけで工事を済ませてしまっているような例もありました。
こんな場合は、きちんと接続できないだけでなく、上下階の防火区画を壊したままになっている住戸も散見されました。
今回の工事は、途中でアスベストを使用した建材が発見され、法律に基づいて処理する費用が予想外に掛かったり、1階の床下ピットで新築時の大量の廃材が見つかったり等大変でした。
でも、工事会社の機敏な対応と判断のおかげで、それらの「苦難」をすべて克服し、300戸以上の住戸の全ての工事を完成することができました。
ちなみに、今回の工事の発注方式は、責任施工を前提として大手工事会社に提案型の見積りをお願いしました。
また、提案見積りに際しては、工事会社もかなりの見積りコストがかかることを考え、各社に見積費用をお支払する条件でコンペをしていただきました。
工事の様子
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|竣工当時の状態を下階の天井裏から撮影しました。
スラブ裏(上階)の機器は、バスタブか便器と思いますが、下階の天井裏に敷設された横引管と接続されています。|これは竪管の一部を修理した後、広げた穴をコンクリートで塞がずに放置したままとなっている様子です。水平方向の防火区画が形成されていません。|
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|両サイドが更新した排水管です。
真ん中は、新設した通気管です。|設計事務所を起用せずに、工事会社の責任施工方式で発注しましたので、定例の会議は管理組合と施工業者だけで開催します。
工事会社の説明をよく聞きながら各種の難問を解決しなければならないので、信頼関係の構築が大切です。|
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|完成検査の様子です。
工事中は次から次へと問題が発生するので本当に大変でしたが、工事会社はよく対応してくださいました。
竣工検査の日が来た時にはホッとしました。|引渡しを受けた後、理事長から感謝状の贈呈です。|
マンション大規模修繕工事における談合の実態について(2)
こんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。
過去に、「マンション大規模修繕工事における談合の実態について」という記事を書かせていただきましたが、今回はその第2弾です。
当事務所の顧問契約先に定期的にお送りしているニュースレターを一部アレンジしてこのブログでご紹介させていただきます。
実は、「大規模修繕工事の談合」については、過去に、管理組合の方を対象としたセミナーでテーマとして取り上げようと試みたことはあったのですが、内容があまりにもリアルで生々しいので、主催者側から「やめてください。」といわれ、いまだ実現していません。
しかし、業界では相も変わらずマンションの大規模修繕工事において談合が繰り返され、被害を受けている管理組合が後を絶たないので、思い切っていろいろと書かせていただこうと思いました。
今回は、貴重?なお話しをさせていただきますのでよろしくお願いいたします。
1.談合とは
下の表をご覧ください。これは私が過去にコンサルティングを行った大規模修繕工事における工事業者の見積金額一覧表です。
上の段が設計価格と各社の提出金額(単位は万円)、下の段は設計価格に対する各社の工事金額のパーセンテージです。
|_. 工事費|>. 21,525|>. 17,900|>. 18,060|>. 18,900|>. 19,200|>. 19,400|>. 19,550|>. 19,600|>. 21,700|
|_. %|>. 100|>. 83.2|>. 83.9|>. 87.8|>. 89.2|>. 90.1|>. 90.8|>. 91.1|>. 100.8|
どうでしょうか?
設計金額に対し、最安値は83.2%で、そこから少しずつ価格を上げ、最高値は100.8%となっています。いわゆる「横並び」という状況です。
8社の工事業者が各社の意思に基づいて見積りをしたら、金額がこのように一定の範囲にきちんとおさまることはまずありません。なぜなら、見積りを提出する時点の会社の事情が様々だからです。
* 今期は、売り上げも少ないので多少無理をしてでもこの工事を受注したい。
* マンションの規模も手ごろで、場所も会社の近くなのでぜひ受注したい。
* 受注したくて応募したけれど、先に別の案件が受注できたので、予定していた現場代理人が足りなくなった。
* 他の同業者から「この案件は、わが社が受注することになっているので降りてくれ」と言われたから今回は無理をせず「貸し」を作っておこう。
以上のような理由で、「横並び」はあり得ません。ではどうしてこうなったのでしょうか?
それは、A社からH社までが設計価格を知ったうえで、全社で話し合い、見積金額を決めて提出したからです。つまり設計価格も漏えいしていたということです。
このとき、私は、公正な競争が行われていないと判断したので、管理組合にA社からH社まで全社を失格にしたうえで、同じ仕様と条件で別の会社から見積りを取得することを提案しました。
結果は何とA社の金額より約3000万円安い見積りが出てきました。管理組合はびっくりしましたが、実際はその金額が適正な金額だったということです。
マンション管理組合にとって、大規模修繕工事は十数年に一度の周期で訪れる大事業です。
検討から工事完了までに1年以上の月日を費やすほかに、多額の工事費用を支出して実施します。管理組合は、自分たちがコツコツとためた修繕積立金を無駄なく有効に使って良い工事をしてもらおうと考え、設計事務所や工事業者を信頼して業務をお願いします。
しかし、その期待を裏切ってこのような談合を行い、何千万(マンションの規模によっては何億)というお金を不当に巻き上げ、設計事務所にキックバックをしたり、談合に参加した業者たちで山分けをしたりするのです。
談合は、日本の建設業界特有のことだと昔からいわれてきましたが、最近は大手のゼネコンを中心に「脱談合」宣言をするようになってきました。しかし、実際は脱談合宣言が業界全体に行きわたっているわけでもなく、マンションの大規模修繕工事を専門とする業者間においては、全く改善は見られず、多くの管理組合が被害にあっている状況です。そしてもっとひどいのは、管理組合の多くは、自分たちが被害にあったことを分かっていないことです。
これが、大規模修繕工事における談合の実態です。
2.なぜ談合が起こるのか
では、なぜ談合が起こるかを考えてみましょう。そこには、管理組合側の問題点もあるようです。
管理組合特有の組織と運営方法
談合が起こりやすい理由の一つに、管理組合の組織と運営方法があります。下の表をご覧ください。管理組合と民間の会社の一般的な比較をしてみました。
|_{text-align:left}. ①構成員|管理組合員|株主|
|_{text-align:left}. ②最高意思決定機関|管理組合総会|株主総会|
|_{text-align:left}. ③業務執行・基本意思決定|理事会|取締役会|
|_{text-align:left}. ④役員選出方法等|輪番制・義務的・任期1年|特定の人物・複数年任期|
|_{text-align:left}. ⑤役員の能力|ほとんどが素人|プロの集団で実力者揃い|
|_{text-align:left}. ⑥責任体制|不明確|明確(刑事罰あり)|
|_{text-align:left}. ⑦報酬|無報酬|高額報酬|
組織の形態を見ると、①から③まではよく似ています。しかし、運営に関する④から⑦までは全く異なります。
つまり、良いか悪いかは別にして、多くの管理組合の運営は、①輪番制(順番)で選ばれた役員が、②いやいやながら苦手なことを、③責任体制が不明確なまま、④無報酬でやらされている、ということです。
ですから大規模修繕工事のような大きな事業を担当することになった理事や専門委員は、①なるべく面倒なことはやらず、②責任がこの身に降りかからないように発言し、③組合員からも文句をいわれないように行動して、④早く終わらせて辞めたい、が本音です。その結果、次のようなことを考えます。
* 専門的知識がないので、全体的な進め方の指南役として設計事務所や管理会社を頼ってしまう(場合によっては、いいなりになってしまう)。
* 特定の個人(組合員や理事の関係者)の関与を極力避けるため、クレームが付きにくい公募方式や入札形式を採用する。
* 設計事務所や工事会社を選定する際に、金額が一番安い会社に発注する。
以上のような選択肢は決して間違っていないのですが、自分たちの頭できちんと考えずに、あまりにも形式にこだわりすぎるため、手順(手続)や見積金額だけで設計事務所や工事業者を選んでしまいます。ここに談合が入り込むすきができてしまいます。
信用している関係者の裏切り行為
談合といえば、工事業者間で話し合ってインチキな見積書を提出する工事業者が一番悪いと思いがちですが、実はそうではありません。
「本当の悪」は、裏で談合を取り仕切っている設計事務所や管理会社なのです。本来、彼らは信頼関係を基盤とする民法上の委任(準委任)契約に基づき、管理組合のために業務を行わなければならない立場にあります。しかし、実態は、管理組合が気付かないことをいいことに、信頼を裏切る行為を繰り返し、多額のキックバックをかすめ取っています。
建設業界特有の事情といってしまえばそれまでですが、あまりにもあこぎなやり方だと思います。また、談合が常態化しているこの業界では、やっている関係者らも自分たちは悪いことをやっているとは考えず、「会社の利益のためにはやむを得ない。」程度にしか考えていません。つまりお金をいただいている管理組合の利益のためではなく、自分たちの利益ために一生懸命になっているということです。
設計事務所や管理会社は管理組合の予算額等をすべて知っているわけですから、そのような関係者が工事業者と結託して裏切り行為を行うと、管理組合はたまったものではありません。
冒頭にご紹介した談合の事例も、設計事務所が設計価格を業者に漏らしていることは明らかです。
管理組合は一見客
マンションのライフサイクルにおいて、外壁や屋上の大規模修繕工事は十数年に一度の周期で行います。また、給排水管の更新工事においては、一回限りの場合もあります。
これらのことを考えると、マンションの大規模修繕工事を生業としている設計事務所や工事業者にとっては、マンション管理組合はいわゆる「一見客」なのです。
ですから、そもそも「誠実に長い期間お付き合いをしたい。」という気持ちが希薄な業者にとっては、逆にありがたい存在です。マンションストックが増え続けている現在においては、大規模修繕工事を行うマンションは年々増加していますので、一発勝負で大儲けをすることができる「獲物」はいくらでもいるということです。
3.談合されないためには
では、管理組合が、談合で多額の修繕積立金を毀損しないためにはどのようなことを考えたらよいでしょうか。
本当に信頼できるコンサルタントを見つける。
設計事務所の中には談合を取り仕切ってキックバックを貰うようなことをやらない真面目な事務所もありますので、そのような設計事務所に業務を依頼することです。しかし、業界事情等に詳しくない管理組合がこのような設計事務所を見つけることは簡単ではありませんし、そんな設計事務所は、管理組合が公募で募集しても応募してくることはまずありません。
なぜなら、そのような設計事務所は、信用と評判で仕事の依頼が来ますし、管理組合が行う公募に参加して見積りを提出しても、管理組合が見積金額だけで評価してしまうことを知っているからです。
ところで、私の個人的な感想ですが、このような真面目な設計事務所の人たちにもにも申し上げたいことがあります。
それは、もっと管理組合の目線でお仕事(営業活動を含む)をやっていただきたいという点です。
真面目な設計事務所の人たちの共通点は(あくまでも私見です)、
* 仕事は当然によくするが、お話があまり上手ではなく、無愛想
* 悪気はないのだけれども、難しい専門用語をよく使い、管理組合(素人)の話を十分に聞いてあげず、「自分にまかせておけば絶対大丈夫」という意識が強い。
* 自社の見積内容を管理組合によくわかるように説明するのが下手
* 自分の気に入らいないと、すぐに「この仕事を降りる」と平気でいう。
等です。そのうえ見積金額は問題設計事務所よりも高いのですからなかなか採用されません。
今後は、少しずつでも努力していただければと思います。
工事業者の選定には、設計事務所や管理会社を関与させない。
談合が一番起こりやすい過程は、工事業者を選定する段階です。
特定の個人の関与を避けるため、専門紙等を使って「公募」という方法で工事業者を募集する場合が多いのですが、実はこの段階で談合のメンバーが決まってしまいます。
募集については、予め公募の条件(資本金、業歴、施工実績、現場代理人の条件等)を決めて行いますが、多くの場合は設計事務所や管理会社が関与して条件を決めていきます。
談合を取り仕切る設計事務所等は、自社のいうことを聞く工事業者仲間が決まっていて、それらの業者しか応募できない条件を管理組合に提示します。
また、そのことを知っている他の工事業者も「どうせ応募しても、あの設計事務所なら自分の会社に仕事が来ることはない。」ということを知っていますので、鼻からあきらめてしまうこともあります。
ですから、公募の時点では既に談合メンバーが出来上がっているわけです。
当事務所が大規模修繕のコンサルティングを行う場合には、見積りを依頼する工事業者の選定には設計事務所や管理会社を関与させません。
つまり、管理組合がどの工事業者に見積り依頼をしたかは、設計事務所は分からないのです。
談合は、見積りに参加した全ての工事業者が「一枚岩」となって話し合わないとうまくいきませんので、どの業者が見積参加しているかとか、全部で何社が応募しているのかなどが分からないとそもそも談合はできません。
詳細については、専門的な知識や当事務所独自のノウハウ等もありますので割愛しますが、工事業者の選定に設計事務所や管理会社を関与させない手法はかなり有効です。
金額だけでコンサルタントや設計事務所を選ばない。
多くの管理組合はコンサルタントや設計事務所を選ぶ際には、金額が一番安いところに発注します。
管理組合の大切なお金を有効に使わなければならないので当然のように思えます。しかし、前述のとおり、安い金額で受注しておいて、実際は裏で工事業者の談合を取り仕切り、多額のキックバックを受け取っている設計事務所はとても多いのです。
彼らは、自分たちの受注金額の何倍ものキックバックを工事業者から受け取りますので、受注金額は安くても構わないのです。
設計事務所の見積書を確認する際は、合計金額だけを見るのではなく、どの業務にどれだけの手間をかけて実施し、その作業単価はいくらなのかよく見たうえで、工数や単価が妥当であるかをきちんと見極めてから決めるべきだと思います。
作業の単価が著しく安いと思ったときは「なぜこんなに安いのですか?」と聞いてみて、納得のいく回答が得られなかったら怪しいと思って間違いありません。
コンサルタントや設計事務所にしかるべき(適正な)金額を支払ったとしても、工事金額に比べればさほど大きな金額ではありませんので、ここで騙されないようにしていただきたいと思います。
4.さいごに
今回私がこのような記事を書いたことは、業界の人たちから見ると「禁じ手」かもしれません。また、私もサラリーマン時代は長い間建設業界で仕事をしていましたので、談合に関しては偉そうなことはいえません。
しかし、マンション管理の世界で仕事をするようになり、大規模修繕工事においていとも簡単に談合が行われ、専門的知識のない管理組合がその餌食になっているのを見ていると、いつかはこのようなことを書いてみようと思っていました。
最近は、インターネットの普及などで、管理組合も大規模修繕に関する情報を多く得ることができるようになりました。そして、私以外にもこの業界では談合が横行していることを唱える人も増えてきました。
※最近、マンションの大規模修繕(リフォーム)に関する技術や管理組合のニーズの把握等を研究している団体が、「提言」と称し、不適切なコンサルタント(設計事務所)の横行及びその実態並びにそれらの排除に関するコメントを機関誌に掲載して波紋を広げています。
その内容は、私も拝見しましたが、まさに私が申し上げたいことが書かれていました。
管理組合もだんだん知識が増えていくと思いますので、この業界もいつかは「脱談合」に向かって進んで行かないとやっていけなくなる時代が来ると思います。
先日ある工事業者が私の事務所を訪ねてきました。
話しの内容は、「今後はコンプライアンスを重視し、業界特有のお付き合いからは足を洗います。そして、自社の品質と価格で勝負していきます。」ということです。
やや回りくどいいい方ですが、早い話が「もう談合はやりません。これからは実力勝負でやっていきます。」ということでした。逆にいえば、「今までは談合をやっていました。」とも解釈できますが…
これからは、実力で勝負しようとするこのような工事会社が増えていくことを期待したいと思います。