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マンションの損害(火災)保険について

こんにちは。重松マンション管理士事務所の重松です。
今回は、ほとんどのマンション管理組合が付保している損害保険について書かせていただきました。
高経年マンションにおいては、最近の保険料の大幅な値上がりで驚かれていると思いますが、そんな管理組合にとってもリスク(危険)管理のヒントになれば幸いです。
なお、文中によく出てくる「保険料」は、加入者が保険会社に支払うお金で、「保険金」は、事故が発生した時に、保険会社が契約に基づき加入者に支払うお金のことです。

1.損害保険の歴史

リスク管理の考え方は、紀元前からあるといわれ、古代中国の船荷の輸送方法(複数の船に分散して荷物を輸送する。)が起源であるとか、保険については14世紀ヨーロッパの貿易商が、海上貨物の保険制度をスタートさせたことがその始まりとかいわれています。
そういえば、損害保険会社の社名には「●●海上」という名称が多いのもうなずけます。
17世紀後半になると、ロンドンのロイドコーヒー店に多くの保険引受人が集まり、海運や貿易に関する様々な情報を収集するようになり、会員制の保険組合ができ、これがいわゆる「ロイズ(Lloyd’s)」 の始まりといわれています。
そして日本においては、明治維新以降に本格的な保険会社が誕生して現在に至っています。

2.マンションにおけるリスク管理の考え方(手段)

マンションにおけるリスク管理は、物に対するリスクと損害賠償に対するリスクの2つに分類されますが、まずはそれらのリスクに対する管理手段等を考えてみましょう。

①リスクの回避

この考え方は、リスクの発生を回避するというもので、危険な場所には近づかないという考え方です。例えば紛争や戦争が起こっている国への旅行を中止したり、自動ブレーキのついた車を運転したりするなどです。マンションの場合は、火災が発生しないよう不燃性の内装材料を使用したり、建物をコンクリート造で設計したりすることなどですが、これらのことは建築基準法や消防法等の法律で必須事項になっている場合がほとんどです。

②リスクの軽減

リスク発生時の損害を極力低く抑えようとする考え方です。
例えば、車を運転する時にはシートベルトをするとか、エアバッグ付きの車を選ぶなどです。
マンションの場合は、旧耐震基準の建物であれば、耐震補強を実施し、損害の発生を軽減させる工夫などがそれに当たります。

③リスクの保有

全てのリスクに対応することができれば一番よいのですが、それにはかなりの費用が掛かることが予想されます。
リスク発生時のために、一定額の貯蓄をしておくとか、お互いが助け合う互助制度や組合制度を構築しておくなどがその考え方です。
マンションにおいては、修繕積立金を積み立てておくなどがそれにあたると思います。
※修繕積立金は、原則として計画修繕のために積み立てられるものですが、標準管理規約単棟型第28条第1項(修繕積立金の使途)第2号に「不測の事故その他特別の理由」が規定されています。

④リスクの移転

どのような準備をしておいても、リスクを完全に排除することはできません。
ですから、リスクが発生したときに、その損害を経済的に解決できる方法を予め準備しておく考え方があります。これが生命保険や損害保険の考え方です。

3.損害保険の基本原則

損害保険には、その制度を支えている重要な基本原則がありますので、その原則を以下にご紹介します。

①大数の法則

精巧に作られたサイコロを6回振ったとしても、1から6までの数が一回ずつ出るとは限りません。しかし、6万回振ったら、600万回振ったらどうでしょうか?
その場合は、多少の誤差はあっても1から6までの数がほぼ同じ数だけでてきます。確立上当然のことですが、これが「大数の法則」です。
個々の場合を見ると偶然と思われる事故でも、全体からみると一定の確率で発生しており、保険の統計的な基礎数値となっている法則のことです。
マンションにおける火災や漏水事故も、多数のマンションを観察すれば、一定の発生頻度を予想することが可能になります。

②収支相当の原則

保険は、原則として加入者が支払う保険料の範囲内で運営・処理されることを前提として成り立っています。
事故が発生した時に加入者に支払う保険金に充当する「純保険料」と、事業運営のための経費等に充当される「付加保険料」があり、純保険料の総額と保険金の支払い総額は一緒でなければなりません。これを「収支相当の原則」といいます。
具体的な計算例として、マンションが100万戸あった場合、火災事故の発生件数が年間に2,000件で、1件当たりの平均被害金額(支払保険金)が1000万円と想定してみましょう。
保険金総額は、1,000万円×2,000件=200億円となりますので、必要な保険料は200億円÷100万戸=2万円/年間になります。
保険業法で、保険会社が、顧客獲得のために勝手に値引き販売をしたり、過剰な保険金を支払うことが禁止されている理由も「収支相当」でなければならいことにあります。

③給付・反対給付均等の原則(公平の原則又はレクシスの原則)

例えば、木造の戸建住宅と鉄筋コンクリート造のマンションに保険をかけるとします。どちらも評価額は5千万円とした場合、火災が発生するリスクは木造住宅の方が高いことは容易に理解できます。だったら、加入者が支払う保険料は、木造住宅の方がマンションよりも高くなって当然ということです。
専門的にいうと、加入者が負担する保険料は、保険事故が発生する確率と保険金を乗じた額と同じでなければならないという原則です。
マンションでの漏水事故を考えた場合、築浅のマンションと高経年マンションではその発生率が全く違います。最近は、高経年マンションの保険料がとても高くなっているという理由はそこにあります。

④利得禁止の原則

損害保険の場合は一部の例外を除き、その保険で利益を得てはいけないという原則があり、これを「利得禁止の原則」といいます。例えば1億円の保険契約をしていても、損害額が1千万円だったら貰える保険金は1千万円です。わざと事故を起こし、保険金で儲けようとする行為を防止するためです。
損害保険契約をする場合は、十分な補償をしてもらえるように考えて契約することが大事ですが、必要以上の金額で契約をしても、高い保険料を支払うだけになってしまいますので、検討が必要です。

4.マンションに付保する損害保険の代表例

①物保険(基本保証)

一般的には「主契約」といわれ、契約する保険の基本的な部分です。火災保険がベースで、特約としてその他のさまざまな補償がついています。契約金額(保険金額)はマンションの再調達価額 の●●%という方法で決定し、その金額に応じた保険料を負担することになります。鉄筋コンクリート造のマンションの場合は、火災による全損は考えられませんので、100%の契約をする必要はありませんが、30〜60%で契約している管理組合が多いようです。また、マンションでは火災の発生よりも、悪戯や飛来落下物等の外的要因による破汚損の方が圧倒的に多いので、どのような特約を付保するかも検討のポイントになります。水害の可能性がほとんどない高台のマンションに、「水害保証特約」を付けたりしている管理組合を見かけますが、専門家にも相談しながら再検討されたらよいと思います。

②施設賠償責任保険

前述の火災保険は、マンションが被害を受けたときの補償を目的とした保険ですが、施設賠償責任保険は、マンション管理組合が維持・管理する共用施設に原因(管理の不備等)があり、第三者に損害を与えた場合、その損害賠償責任を担保してくれる保険です。
共用部分である給水管からの漏水で、居住者の住戸を水浸しにしてしまったとか、マンション内公園の遊具の管理状況に問題があり、幼児がけがをしたとかなどが代表的な事例で、その場合は管理組合に損害賠償責任が発生しますが、施設賠償責任保険を付保していれば保険でカバーできます。

③個人賠償責任保険

この保険も賠償責任保険ですが、対象は管理組合の共用施設ではなく、マンションの居住者になります。
居住者が、日常生活において、過失等が原因で第三者に対して損害を与えてしまった場合の保険となります。
この保険がカバーしている範囲は結構広く、日常生活に起因する事故等であればマンションの外で発生した場合も適用されます。しかし、近年は高経年マンションを中心に、専有部分の配管が原因での漏水事故が多発しており、そのためにこの保険料が大幅に値上がりしています。
また、そもそも共用部分には関係のない個人の損害賠償責任を、なぜ管理組合が負担して保険をかけなければならないのかという議論もあります。
上下階の漏水事故は、個人間の問題とはいえ、加害者に賠償能力がない場合には、必ずといってよいほど管理組合が紛争に巻き込まれますので、多くの管理組合で付保している場合が多いと思います。しかし、保険料が安い時代ならともかく、最近の大幅な値上がりを考えると、管理組合で付保することの是非も再検討した方が良いかもしれません。

5.その他

地震保険に対する考え方

管理組合で地震保険を付保するべきかそうでないかはよく問題となるところです。
あくまでも私見ですが、私は以下の理由であまりお勧めはしていません。①最大でも住宅の50%までしか付保できず、受け取った保険金で損害を全てカバーできないこと。つまり、地震保険は、被害を受けた建物を修復するというよりは、被害者の当面の生活の補てんが目的であり、管理組合の本来の目的とはいい難いこと。②保険料がかなり高いこと。③補償の対象が建物なので、設備や附属施設に大きな被害が出ても保証されないこと。④1回の地震での保険金支払総額が11.3兆円を超えた場合は、契約金額に応じて比例配分(減額)されるので、首都圏で大地震が発生した場合は、契約通りの保険金がもらえない可能性があること。などです。
しかし、東日本大震災以降、マンションにおける地震保険の契約率が大幅に上がっていることも事実ですので、管理組合のそれぞれの事情を考慮して検討されたらよいと思います。

保険金請求に関する誤解と時効

保険金は、契約者が被った損害に対して支払われますので、受領した保険金をどのように使うかは管理組合の自由です。例えば、敷地内のベンチが何者かに壊されたので、保険申請をして保険金を受領した場合、同等品を新規に購入するのか、更に費用をかけてもっと高級なベンチを購入するのか、購入しないで当面様子を見るのかなどは管理組合が決めればよいことです。被害が発生していないのに保険金を請求したら、詐欺になりますが、被った被害に対する保険金を受領しているのですからこの場合は詐欺になりません。
また、保険金請求の時効は3年といわれていますが、多くの人は、3年以上前に発生した事故は保険請求ができないと勘違いされています。3年の時効とは、保険会社の認定が下りて、保険金を受領できるようになってから、3年間請求をしなければ時効になってしまうという意味ですので、3年以上前の事故であっても、保険会社にきちんと説明ができる事故であれば、まずは請求してみた方が良いと思います。
それから、マンションの損害保険は自動車保険とは異なり、保険事故が発生して保険金を請求しても、更新時に保険料が上がることはありません。
(※料率の改定により、保険料が上がることはあります。)
また最近では、契約期間内の一定の判定期間内に保険金の請求がなかった場合(いわゆる無事故の場合)には、更新時の保険料を割り引く保険会社も出始めました。

マンションドクター火災保険について

多くの保険会社は、マンションの築年数だけで計算して保険料を算出します。前述のように築浅のマンションと高経年マンションでは漏水事故の発生率に大きな差があるからです。しかし、適切な修繕を実施して、給水管や排水管をきちんと更新しているマンションの場合はどうでしょうか。漏水事故の発生率は新築マンションと変わらないはずです。保険料を築年数だけで算出するのではなく、マンションの管理状況を細かく評価したうえで、保険料を算出する保険会社も出てきています。築年数が古い場合でも、適正な管理ができているマンションであれば、保険料が30〜40%も安くなっている事例もあります。
このマンションドクター火災保険を適用するための管理状況の査定は、研修を受けたマンション管理士が行う必要がありますが、高経年マンションであっても、きちんと管理がされているマンションであればぜひ検討する価値はあると思います。

6.さいごに

いかがでしたか?マンションに付保する保険の場合、商品の変遷等もあり、誤解や勘違いなども結構多いように思います。保険の中身を知らない場合には、大きな損をする可能性もありますので、分からないときなどはぜひ専門家に相談して検討してみてください。

修繕積立金を専有部分の改修に使用した事例の最高裁決定について

こんにちは。重松マンション管理士事務所所長の重松です。
私が10年来お世話になっている管理組合で、4年にわたる裁判をやっていましたが、2017年9月にようやく最高裁判所の決定が出て決着した裁判があります。この裁判は、相手方(原告・控訴人・上告人)の代理人弁護士はこの業界でも有名な学者だったし、高等裁判所の判決が出た時点で、一部のマスコミにも紹介されましたのでご存じの方もいらっしゃると思います。
事件の内容は「修繕積立金を専有部分の工事に使用できるか。」というものです。注目度の高い事案だと思いますが、今までは係争中であったこともあり、本件のご紹介は控えさせていただいておりました。
しかし、最高裁判所の決定が出たことや、私のホームページで紹介することに関し、管理組合からの了解が得られたのでここに公表させていただくことにしました。

はじめに

簡単にいうと、本判決は、「マンション管理組合が大規模修繕工事等の修繕を実施する場合、一定の条件のもとで修繕積立金を専有部分の工事に使用することは、違法ではない。」という内容です。
マンションの修繕積立金の使途については、多くの場合、管理規約で定められており、国土交通省マンション標準管理規約(単棟型)では、第28条(修繕積立金)に以下のように規定されています。

  1. 一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕
  2. 不足の事故その他特別の事由により必要となる修繕
  3. 敷地及び共用部分等の変更
  4. 建物の建替え及びマンション敷地売却(以下「建替え等」という。)に係る合意形成に必要となる事項の調査
  5. その他敷地及び共用部分等に関し、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる管理

上記の修繕は、全て共用部分が対象とされています。
また、第21条(敷地及び共用部分等の管理)第2項には以下のような条文もあります。
「2 専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる。」
そして、その条文に関する国交省のコメント欄には以下の2点があげられています。

  1. 第2項の対象となる設備としては、配管、配線等がある。
  2. 配管の清掃等に要する費用については、「共用設備の保守維持費」として管理費を充当することが可能であるが、配管の取替え等に要する費用のうち専有部分に係るものについては、各区分所有者が実費に応じて負担すべきものである。

給排水管の横引管が「専有部分」であることを前提として、以上を素直に解釈すると、国交省は、「専有部分を含む雑排水管の高圧洗浄等は管理費から支出しても良いが、更新(取替え)工事の場合は、専有部分に当たる部分の工事は個人負担でやりなさい。」と指導している事になります。
築年数が経過した高経年マンションが多くなった昨今、給排水管の更新工事はその事例がとても多くなっています。
その際に、「共用部分(竪管)の更新は管理組合の責任と負担で実施しますので、専有部分(横引管)については、個人負担でやってください。」となると、個人の経済的な問題もあり、専有部分の改修がなかなか進みません。
専有部分の改修が進まないと、それを原因とした漏水事故が多発し、結局は管理組合運営に支障をきたします。
そこで、管理組合に資金的な余裕や目途がある場合は、専有部分も修繕積立金で工事を実施する例は、最近は結構あります。
それが、今までは大きく揉めたり裁判沙汰までならなかったのは、反対する人が少なかったからです。
専有部分の更新工事は実施したいが、個人負担となると躊躇する住戸が出てくることは容易に想像できます。しかし、それを修繕積立金を使って管理組合が実施してくれるのであれば反対する人はいないはずです。
今回は、管理規約の改正・修繕積立金で専有部分の工事を一部実施することなどを提案した総会決議に関し、2名の組合員から「総会決議の無効」を主張して訴えられた事案です。

修繕工事のきっかけ

ご紹介するマンションは、私が2005年からお世話になっているマンションで、概要は以下のとおりです。

  • 竣工 昭和42年(1967年)今年で築51年を迎えます。
  • 4棟の団地形式で戸数は200戸弱

築40年目くらいから建替えも検討しましたが、容積率が現行法規をオーバー(いわゆる既存不適格建築物)しており、同様の規模では建替えができないことが判りました。
そこで、理事会と修繕委員会では、向こう30年間は十分に使用できる本格的な修繕工事を実施することを考え、従来型の大規模修繕工事ではなく「マンション再生工事」と名付け、本格的な検討に入りました。
建物については、従来の外壁塗装や防水工事に加え、ベランダ手摺の全面交換、玄関扉の更新を計画しました。ちなみに、アルミサッシについては米軍や自衛隊の基地が近くにある関係で、防衛省の騒音対策費でほぼ更新済みでした。
そして、設備に関しては給水管・排水管・ガス管の全面更新を計画しました。

給排水管更新工事等の概要

既設の配管類と更新方法は以下の表のとおりです。

|_. 部位|_. 現状|_. 修繕計画|
|排水管|・配管材料は白ガス管と塩ビ管が混在
・横引管は、下階の天井裏に敷設されている|・竪管・横引管とも硬質塩ビ配管に更新
・なお、横引管は最高裁判例(平成12年3月21日)により「共用部分」|
|給水管|・配管材料は白ガス管
・横引管は、床スラブの上にシンダーコンクリート数㎝を施工し、その中に埋設|・竪管・横引管とも架橋ポリエチレン管(電気融着継手)に更新
・横引管(専有部分)は、シンダーコンクリート内に埋設(一部露出)
|
|トイレ|・従来型便器(フラッシュバルブ方式・専有部分)|・給水管、排水管の更新とともに、便器(節水タイプ・専有部分)も交換|
|浴室|・バランス釜タイプ
・浴室防水+押えコンクリート+タイル貼り
・椀トラップを経由して、下階天井裏から排水
・浴室防水、トラップは共用部分
・バランス釜、浴槽、内装タイルは専有部分|・バランス釜と浴槽を撤去してユニットバス化
・ベランダに新規に給湯器(16号)を設置
・床スラブに新たに穴をあけ、下階天井裏に排水経路を確保
・ユニットバスと大型給湯器は専有部分|

この表をご覧になって、皆様は何か感じられましたか?
更新工事の内容に、「ユニットバス」「給湯機」「便器」など明らかに専有部分である設備が多く記載されています。前述のとおり、横引管までを更新する例は多いと思いますが、ここまで踏み込んだ形での更新は珍しいと思います。
今回の、工事は共用部分の工事をするためには、浴槽も解体しなければできないとか、トイレの便器も従来品を再利用するなら保証が出ない等の難問が山積していました。
そのため、

  1. 従来のバランス釜タイプの風呂釜と風呂桶は撤去し、復旧しないでユニットバス方式に変更する。
  2. そのためには、給湯器が必要となるのでベランダに給湯機を設置する。
  3. 便器も旧式のフラッシュバルブ方式の便器を再利用するのでは、更新した配管との接続がうまくいかず、工事会社からの保証が出ないので、新品の節水型に交換する。

等の大掛かりな付帯工事が必要と判断しました。
浴室の現状図をご覧ください。

この状態で、排水管を更新するには、現在設置してあるバランス釜と浴槽を一旦撤去し、洗い場の床を壊して、排水管と防水層をやり替えた後、また床のコンクリートを打設したうえで、一旦撤去したバランス釜と浴槽を再設置することになります。
検討しましたが、この工法では工期も費用も掛かり、且つ再利用するバランス釜や浴槽も問題なく再利用できる保証がありません。
ユニットバス方式にする方が、工期もコストもメリットがあることが判りました。

費用負担の検討

このように、ユニットバス、給湯器、便器などは明らかに専有部分ですが、この方法で施工する方が、工期も短く費用も安く上がることや、専有部分を個人負担にすると、前述のとおり、経済的な理由等で工事ができない住戸が発生することが明らかなので、全てを修繕積立金で賄い一斉に工事することを検討しました。
長期修繕計画を見直した結果、さすがに一時的に資金ショートすることが分かりましたが、金融機関からの借入れを利用すると何とかなることも分かりました。
また、リフォーム等が進んでおり、既にユニットバス化した住戸や便器の交換をした住戸もありましたので、今回、管理組合でそれらの更新工事をしなくても良い住戸については、不公平にならないよう、何らかの配慮をすることを具体的に検討しました。案としては、それらの工事費用に相当する金額を返金する案もありましたが、規約で禁止されている修繕積立金の分割になる可能性もあるので、それは行わず、今回の工事に伴うオプション工事(個人負担)費用の減額をすることで決定しました。

手順

管理規約の改正案作成

標準管理規約(単棟型)には、第21条第2項に「専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる。」とありますが、これをさらに踏み込んで「専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分及び共用部分の管理上影響を及ぼす部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる。」とし、具体的にはユニットバス化や給湯器の設置を意識した改正案を作成しました。
そして、修繕積立金の使途(標準管理規約の場合は第28条第1項)に上記の工事を加えることとしました。

総会決議

重要な案件なので、事前に説明会を開催し、この方法が一番合理的であることや、組合員間の不公平が極力出ないような配慮をすることを十分に説明し、臨時総会を開催しました。
議案は以下のとおりです。

  1. 前記管理規約の改正
  2. 給排水管等更新工事の実施
  3. 資金の借入
  4. 管理費会計剰余金の修繕積立金会計への振替処理

裁 判

反対者はいたものの、議案は全て可決され工事が始まったその時に、2名の組合員から以上の決議は全て無効である旨の訴訟を起こされました。「2」、「3」、「4」は、「1」の決議に関連するものなので、実質的には「1」の規約改正の有効性を争った形となりました。
また、更に驚いたのは、原告側の代理人弁護士はマンション管理の業界では誰でも知っている有名な学者さんでした。管理組合側も、従来からお世話になっている弁護士事務所に依頼してここから長い戦いが始まります。
この間、裁判官も途中で3回変わりましたので、裁判官の性格や評判等も調査(検討)しながら弁護士事務所と協議し、裁判を進めました。
原告側は主に区分所有法の原則論的な主張が多く、さすが学者弁護士だなと思いました。
一方、被告(管理組合)としては、区分所有法の原則は尊重するものの、専有部分を同時施工する合理性や、起こり得る不公平に対する配慮などを丁寧に説明し、この建物においては、こうすることが最も合理的であることや、最終的に反対している組合員はわずか2名に過ぎないこと等を主張し、最後は多数決による「住民自治」を尊重するべきであるという点を主張しました。その間、準備書面を作成するための打合せや、関係者に証人として出頭していただくためのお願いなど、大変な苦労がありました。
そうしているうちに工事は進み、原告1名の住戸の縦系列を除いて工事は完了しました。ちなみにもう1名の原告は工事に協力し無事に完了しています。

1審(地裁)・2審(高裁)の判断

第1審の判決が出たのは、管理組合に訴状が届いて約3年7か月後でした。本当に長い戦いでしたが、結果は管理組合の全面勝訴です。
第1審の判決文はこちらをご参照ください。
原告は直ちに控訴し、裁判は更に続きましたが、6か月後に出た第2審(東京高裁)の判決も第1審の判決に加筆する形で原審を全面的に支持する内容でした。
第2審の判決文はこちらをご参照ください。

最高裁判所決定

原告(控訴人)は、高裁の判決を不満として最高裁に上告しましたが、2017年の9月に最高裁判所の決定が出ました。
決定文はこちらをご参照ください。

さいごに

私見ではありますが、マンション管理組合運営は、合理性と衡平性が担保されており、多くの区分所有者が賛成しているのであれば、区分所有者による自治がかなりの範囲で認められるのではないかと感じました。
そもそも民法の特別法として区分所有法ができたのも、民法では「全員一致」でなければできない「共用部分の変更」を見直し、区分所有建物を適正に管理するためには多数決原理を導入する必要があるという考え方に基づくものだと思います。
今回の裁判例だけをとって、「修繕積立金を専有部分の工事に使っても構わない」という短絡的な発想にはならないと思いますが、一つの参考事例にはなると思います。
最後に、今までの裁判の論点を以下にまとめてみましたのでご参考にしていただければと思います(PDF版:修繕積立金を専有部分の改修に使用した事例の各争点と裁判所の判断)。

【争点①】マンション総会決議の無効確認の利益の有無

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【争点②】共用部分と一体化した専有部分や共用部分の管理に影響を及ぼす専有部分の管理を管理組合が行うことは、区分所有権の侵害に当たるか。

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【争点③】本件規約の改正が、区分所有法第30条第3項(不衡平の禁止)に該当するか。

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【争点④】本件規約の改正が、区分所有法第31 条第1 項後段(特別の影響を受けるものの承諾)違反となるか。

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【争点⑤】修繕積立金の目的外使用に該当するか。

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【争点⑥】仮に改正された規約が有効だったとした場合、本件工事の内容が、規約に違反しているか。

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【争点⑦】本件工事は、区分所有制度の基本に反するか。

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